宇佐美 洋,金田 智子,島村 直己,野山 広,Prashant PAREDSHI
多文化の人々が対等な関係を築きつつ,互いの文化を尊重して共に生きる社会の形成には,「異なる他者」と対話する力の育成が不可欠である。多文化の人々が関わり合えば様々な摩擦・衝突が起こる。互いの違いを認め合いながら共に生きるとは,問題を解決しようと対話を重ねていくということである。しかし,異なる言語・文化の人々の対話においては,共通言語の選択や使い方が重要な問題となる。ことばによって人はつながり,理解し合うことができるが,ことばによって人は分けられ,力関係が生まれもする。
多文化社会におけることばの問題を,日本人(=日本語母語話者)と外国人(=日本語非母語話者)という2項対立の構図で捉えては,複数の言語・文化を背景として育つ子どもたちを理解することはできず,また「日本人」「外国人」のそれぞれの中に存在する多様な言語・文化に関わる問題を見えなくしてしまう。ことばの問題をどうとらえ,何をすべきかを日本語教育の実践を踏まえて考えていく。
発表者:宇佐美 洋/金田 智子/迫田 久美子/島村 直己/中上 亜樹/野原 ゆかり/福永 由佳/野山 広 他
これまでの言語学・応用言語学の言語コミュニケーション力論は,個人内の能力だけでなく,対人的相互作用をも扱えるように発展してきたが,依然として単一言語主義(monolingual mindset)から脱しきれていない。その一因として言語コミュニケーション力を,ほとんど非意識的な認知機構(nonconscious mind)の働きとして捉える旧来の認知科学の考え方が背後にある。しかし神経科学(およびそれに伴う神経哲学)は,非意識的な認知機構(nonconscious mind)にとどまらず意識(consciousness)の働き,および意識の働きによる自己(self)のあり方を解明しはじめている。本発表はこの解明により,欧州評議会が提示している複合的言語文化能力(plurilingual and pluricultural competence)の概念を読み解き,「多文化共生社会におけるコミュニケーションとその教育」の進展に貢献することを目指す。