『日本言語地図』や『方言文法全国地図』では,近畿(特に畿内)を中心とした「周圏分布」を示す地図がある。方言地理学ではこの分布から「方言周圏論」を用いて言語変化の過程を推定してきたが,果たしてこの推定は実際に起きた言語変化と合致するのだろうか。この研究発表会では,プロジェクトが分析段階に移行するにあたっての問題提起として,上記のようなテーマを設けた。現時点で集まったプロジェクトの調査結果を用い,その他の調査で得られた成果も取り入れつつ,近畿を中心とした方言分布変化について考えた。具体的には,次のような疑問にこたえることによって,「方言周圏論」を検証した。
(1)
畿内から周辺部に向けての言語伝播はあるのか?
(1-2)
従来の言語地図から予測された変化は起こっているのか?
(1-2)
畿内で発生した新しい言語形式は伝播しているのか?
(1-3)
伝播するとすれば何が伝播するのか?(語彙・文法形式・待遇表現…)
(1-4)
どのように伝播するのか?果たして地を這うように伝播するのか?
(1-5)
(他地域から)畿内への伝播は起こらないのか?
(2)
言語伝播の中心とは何か?
(2-1)
新しい言語形式を生み出す力を持っているところはどこか?
(2-2)
果たして中心とは一つなのか? 複数あるとすれば,それはなぜか?
(3)
近畿周辺部は受け入れるだけなのか?(方言接触のゆくえ)
GAJ調査以後,近畿圏内で行ったいくつかの調査結果の比較を行うとともに近畿地方における言語変化についておもに打消形式などのデータを用いた検証を行った。また,同時に畿内における方言周圏性についてその可能性に触れ,一部,四国地方のデータを用いた比較・検討を行った。
近畿地方中央部ならびに近畿周辺部・周縁部である北陸地方の方言調査データをもとに,かつて中央語と言われた近畿中央部の諸形式が,どのように伝播し,受容され,変化しているのか。都市と地方,中心と周縁ならびに地域特性と調査環境に注目して検討した。
近畿地方は西日本方言域の東端に位置する。西日本方言と東日本方言が接触するこの地域で起こっている変化(あるいは維持)について考えた。具体的には,滋賀県のデータを用いて,否定に関わる形式や確認要求などのモダリティ形式の変化に注目しつつ,当該地域における近畿方言の影響について考えた。
以上