「日本列島と周辺諸言語の類型論的・比較歴史的研究」研究発表会

プロジェクト名
日本列島と周辺諸言語の類型論的・比較歴史的研究 (略称 : 東北アジア言語地域)
リーダー名
John WHITMAN (国立国語研究所 言語対照研究系 教授)
開催期日
平成26年5月31日 (土) 9:45~18:00
開催場所
北海道大学 アイヌ・先住民研究センター 会議室 (札幌市北区北8条西6丁目)
アイヌ・先住民研究センター アクセス : http://www.cais.hokudai.ac.jp/access/
北海道大学 札幌キャンパス 地図・交通アクセス : http://www.hokudai.ac.jp/introduction/campus/campusmap/

「日本列島と周辺諸言語の類型論的・比較歴史的研究」 アイヌ語班 平成26年度第1回研究発表会 (北海道大学アイヌ・先住民研究センター共催)

「本年度のアイヌ語班の活動について」アンナ・ブガエワ (国立国語研究所)

「アイヌ語の語彙による分類 ―統計解析からの一視点」小野 洋平 (統計数理研究所大学院)

アイヌ語の語彙研究における初期の記念碑的論文として服部・知里 (1960) がある。さらに,服部ら (1960) のデータを用いクラスター分析を行った研究として浅井 (1974) が挙げられる。しかし,統計学的な観点からみると,服部ら (1960) の研究ではデータの扱いは適切であったが,残念ながら時代の制約上適切な統計処理を行える環境になかった。一方,浅井 (1974) では統計分析を行える環境にあったが,データの扱い方が統計学的には問題があるように思われる。本発表では,服部ら (1960) のデータを適切に扱い,また有力と思われる統計解析にかけることで,アイヌ語の方言の分類 (特にサハリンのアイヌ語に関して) において,統計学的な視点からの結果を提供できればと思っている。

「アイヌ語の合成語のアクセントとその歴史的解釈」佐藤 知己 (北海道大学)

アイヌ語の合成語のアクセントは前部要素のアクセント優先の原則 (田村 1988) によって説明できるが,CVC語幹が母音で始まる語幹に合成される場合には,音節の再構成化が起こり,しかも第一音節にアクセントが置かれる事例と第二音節にアクセントが置かれる事例の両方がみられる。しかしながら,田村 (1996) を資料として分析してみると,この場合,第二音節のアクセントが優勢であり,これは前部要素優先の原則に反している。このような状況は,CV語幹が前部要素である場合との混同を避けるために類推によって新たに生じたものと歴史的には解釈できる可能性がある。さらに,類推に従わず,前部要素のアクセントが保持されている事例の中には,未知の音 (一種のわたり音か) の存在を暗示するような例がみられ,最近新たに発見された古文献にもその反映とも見られる事例が記録されていることを報告する。なお,CVC語幹の分析に不可欠な声門閉鎖音の取り扱いに関しても触れる。

「アイヌ語十勝方言のイントネーションについて」高橋 靖以 (北海道大学アイヌ・先住民研究センター)

本発表では,アイヌ語十勝方言のイントネーションについて調査データに基づく分析を提示する。特に疑問文のイントネーションにみられる上昇調タイプと下降調タイプの出現に関して詳細な検討をおこなう。さらにその結果を受けて他方言との比較をおこない,アイヌ語諸方言のイントネーションの類型的な把握を試みる。

「アイヌ語の東と西の方言差:特に/ca/と/pa/の地理的分布と「口」の意味拡張から」深澤 美香 (千葉大学大学院)

/ca/ と /pa/ の音韻対応はアイヌ語の東西方言差において極めて明白なもののひとつであるが,その歴史的考察は20世紀初頭の金田一京助の研究から大きく揺れ動いてきた。また,この対応関係をもつ語構成要素の多くが共通して「口」と解釈されることも指摘されている (切替 1994) 。本発表では「口」の意味拡張と語彙の関連を整理し,古文献の記録や地理的分布を手掛かりにこれらの音韻対応がもたらす語彙の謎と魅力に迫る。

「複雑述語の形成プロセスとしての節の融合 ―アイヌ語と日本語の場合―」アンナ・ブガエワ (国立国語研究所)

アイヌ語の「V1+接続詞wa+V2」と日本語の「V1テ形+V2」は統語的にかなり違う構文である。しかし興味深いことに,これらの構文はアスペクトや動作様態などの似たような意味を表す。どちらの構文の例にも,「節の融合」によって,複文から複雑述語が形成されたと考えられるものがあるが,アイヌ語は,日本語からの影響によって,その過程が活性化された可能性がある。その根拠として,本発表では,コーパスの調査から得られた結果を示す。 (1) 「V1+接続詞wa+V2」は「V1テ形+V2」よりトークン頻度が6倍ほど低く,V1のバリエーションが少ない。つまり,前者は後者より文法化の度合いが低い。 (2) 日本語に相応な例のあるV2だけがアイヌ語の構文で用いられつづけており,一方,日本語に相応な例のないV2は,次第に用いられなくなるか,次の段階の動詞構文に発達している。

全体討論