所長メッセージ

所長 田窪 行則

影山前所長のあとを受けて2017年10月から4年間,国立国語研究所 (英語名称 National Institute for Japanese Language and Linguistics,日本語略称 国語研,英語略称NINJAL) の所長を務めることになりました。国語研の任務は,日本語についての独自の研究と,大学共同利用機関としての役目の両方を果たしていくことです。1948年の設置以来,国語研は様々な地域,また時代にわたる日本語のあり方を把握・記録して,様々な研究者たちの役に立つように資料として整備し,データベースなどとして提供してきました。これらは研究者個人として簡単にできることではなく,大学共同利用機関としての国語研がなすべき仕事です。同時に研究所の研究者はその専門分野における最先端の研究を行い,その分野のリーダー,また調整役として,研究を引っ張っていく役目を果たす任務があります。この中には若手研究者に対して様々な訓練の機会を与えることも含まれるでしょう。

2009年の人間文化研究機構への移管以降,国語研は日本語研究の基礎科学としての言語学の研究を視野に入れ,影山所長のもと短期間で実に多くのことを成し遂げてきました。理論研究の中心としての国際的注目度も年々高まっています。同時に,コーパスの充実など他の研究者に対する利便性を向上させました。これからの国語研はこのような方向性を維持しつつ,将来何十年,場合によっては何百年にもわたって残る研究成果を出すために,さらに基礎的な研究を充実させていくべきであると考えます。

これから進めていくべき国語研の仕事として,理論的・一般言語学的観点からの日本語の研究に加え,古語,現代語,方言を含むあらゆる日本語のデータベースの充実,日本語教材の作成,危機言語・危機方言の記録・保存・維持などがあります。国語研は海外の機関との協力のもと,これらを現代のインターネット社会に合うような形で作成し,発信していかなければなりません。また,個人レベルの研究成果を永続的に次世代へ残していくための制度作りも緊急の課題です。研究者は個人レベルではいろいろな形で研究成果を発信していますが,研究者が引退したり,別分野に関心を移したりすると,これらの研究成果が継続性を失ってしまいます。国語研独自の研究と並行して,これらを永続的に次世代へ残していく制度作りが必要です。データベース作成,日本語教材作成,危機言語の調査・記録などの基礎研究はどれも簡単に論文などの形で成果を問うことは難しく,完成までに時間のかかる研究です。類型論,言語理論研究などの基礎をなすこれらの仕事への正当な評価が現在行われているとは限りません。適切な褒賞などさまざまな手段で,すべての研究の土台となるこれらの基礎研究が正当な評価を受けるよう,環境を整えていきたいとおもいます。また,日本語で書かれているため国外で正当な評価を受けてこなかった過去の優れた日本語研究を海外に紹介する作業も並行して行っていきたいとおもいます。

近年,国立の共同利用機関においても6年単位の中期計画により,短期的な成果が求められています。しかし,学術研究の成果は,短期間で得られるものではありません。たとえば,方言研究一つとってみても地域の方々との協力関係,信頼関係を築くためには何年もの地道な努力がいります。国語研のような機関は長期にわたる基礎研究の積み重ねを必要とする作業を行っていくべきであるとおもいます。現在の基礎研究はこのように短期の成果を出しながら,長期的な目標を見据えていくという難しい課題を抱えています。皆様の協力,ご助言をお願いいたします。

国立国語研究所 所長 田窪行則