シンポジウム 「日本語文法研究のフロンティア ―文法史研究・通時的対照研究を中心に―」

プロジェクト名・班名・リーダー名
  • 対照言語学の観点から見た日本語の音声と文法
    窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
    • 文法研究班 「とりたて表現」 野田 尚史 (国立国語研究所 日本語教育研究領域 教授)
  • 通時コーパスの構築と日本語史研究の新展開
    小木曽 智信 (国立国語研究所 言語変化研究領域 教授)
開催期日
平成31年1月13日 (日) 10:00~17:00
開催場所
国立国語研究所 講堂 (東京都立川市緑町10-2)
交通案内
参加費・事前申込み
不要

プログラム

10:00~10:05趣旨説明
野田 尚史 (国立国語研究所)

10:05~10:50「格表示の現古比較 ―現代語から見て違和感のある格表示を中心に―」 小田 勝 (国学院大学)

格助詞は日本語の機能語の中で最も変化の少ない語類といわれるが,丁寧に観察すれば,例えば現代語の「帯を蛇に似せて驚かせた」は,中古語では「帯に蛇を似せて」と表現される,「彼が憎い」は「彼を憎し」と表現されるなど,現代語と古典語とで相当の相違が存する。
本発表では,「風を吹く夜」 (「風が吹く」の意) のような,現代語から見て違和感のある古典語の格表示にはどのようなものがあるか,概観し,次の諸点について指摘する。①正体不明の「を」格がある。②主格に「を」助詞が表示されることが幾つかの句型でみえる。③「自動詞+を」が広く用いられる。④「を」と「に」,「に」と「と」が複数の用法で重なる。⑤古典語について,複数の項がどのような格配置をとるかという研究が殆どみられないが,なされるべきである。

10:55~11:40「古典語・現代語の文脈指示と文体」 藤本 真理子 (尾道市立大学)

指示詞の用法のうち,文脈指示にかんしては,古典語から現代語にいたるまで,ソが中心をになってきた。しかし文章中には,コ・ソ・カ (ア) の3タイプの指示詞すべてが用いられる上,裸の名詞句も現れる。本発表は,まず古典語・現代語において文脈に現れた名詞句を受ける形式を整理し,特徴を示す。その際,指示詞のなかでもコノ・ソノ・カノ (アノ) といった名詞句修飾の形,さらに裸の名詞句も考察対象とする。
平安初期の作品『伊勢物語』では,物語内ではじめて導入された名詞句がその後すぐにカノによって指し示される例が散見される。このようなカノの例は,文学研究では,従来,さまざまに解釈されてきた一方,言語研究の観点からは,異例として検討の対象にあがることが少なかった。本発表では,これらの例を扱うことにより,指示詞と文体との関連を指摘し,指示詞の使用分析が古典語・現代語にわたってテキストタイプの指標となりうる可能性を探る。

11:45~12:30「機能語の資材 ―古代と近代の対照―」 小柳 智一 (聖心女子大学)

いわゆる「文法化」とは,内容語が機能語になる変化を言うが,日本語史を見ると,内容語以外のものから変化したと考えられる機能語もある。何かを資材として新たに機能語が作り出される文法変化を「機能語生産」と呼ぶことにすると,機能語生産は資材の種類によって数種類の類型に分けることができる。「文法化」 (内容語の機能語化) は,たしかに多くの事例を有し目立つが,機能語生産全体から見れば一類型にすぎない。
本発表では,まず機能語生産の類型を示し,次に,古代日本語と近代日本語を対照させながら,それぞれの類型に属する事例を見る。そして,内容語の機能語化は日本語史を通じて一貫して見られるが,接辞 (派生接辞) の機能語化は近代にほとんど見られず,古代に特徴的であることを指摘し,これが古代の語形成と関連することを述べる。

12:30~13:30昼休み

13:30~14:15「現代・中世・古代日本語の動詞活用」 大木 一夫 (東北大学)

一般的にいって,対照研究においては,意味的に類似する形式どうしを対象として,それらを比べることになる。あるいは,意味的に重なる部分がある複数の形式を比べることになる。そして,対照研究とは,比べることによって,その形式をよりよくわかろうとするものである (比べなくてもわかるものは,対照研究の対象ではなかろう)。そういう点で,文法の対照とは文法機能的に類似する文法形式を比べるものとなる。それは構文的側面でもおそらく同様であろう。では,形態的な側面はどうか。たとえば,日本語と英語の動詞の形態 (活用) を対照することにはさほどの意味はないだろう。そうであれば,活用は対照研究の対象にならないのか。本発表では,この点について現代日本語と古代日本語・中世日本語の動詞活用をもとに考えていく。

14:20~15:05「古典語と現代語の可能表現 ―「らる」と「られる」―」 吉田 永弘 (国学院大学)

可能を表す形式のうち,古典語の「 (ら) る」と現代語の「られる (および可能動詞) 」を対照して両者の差異を明らかにすることを目的とする。古典語の「 (ら) る」は,現代語の「られる」の起源であるが,事態が実現したかどうかという観点と,事態実現に動作主体の意志が認められるかどうかという観点とによって両者を観察すると,肯定文・否定文のどちらで用いるにせよ,「 (ら) る」は「られる」に比べて表現領域に制約のあることを指摘することができる。その制約の理由と,「 (ら) る」で表すことのできない領域をどのように表していたのかについても考察する。また,史的観点によって観察すると,実現の仕方と未実現の表し方の変化が中世に生じたことによって,古典語の表現領域から現代語の表現領域に拡張したと考えられることを述べる。

15:05~15:20休憩

15:20~16:05「日本語授受表現の歴史的変化・再考」 森 勇太 (関西大学)

近年,現代語・方言における授受表現研究の進展を承けて,授受表現の歴史的研究も進んできた。発表者も,これまで授受表現の歴史について考えてきたが,まださまざまな問題を残している。本発表では,積極的に現代語・方言の現象と対照することで,授受表現の歴史的変化について改めて考えてみたい。論点は主に2つある。1点目は,「視点制約」についてである。現代語の授受表現には視点制約と呼ばれる方向性の制約があるが,この内実を考えることで,現代語に至るまでの変化がどのように起こったのか,考察する。もう1点は,授受表現の変化の起こった時期と要因についてである。本発表では,方言における授受表現の変化を考慮しながら,日本語史上で授受表現がどのように変化してきたのか,その位置づけについて考えてみたい。

16:10~16:55「「動詞連用形+動詞」から「動詞連用形+テ+動詞」へ ―「補助動詞」の歴史・再考―」 青木 博史 (九州大学)

現代日本語における「補助動詞」は,「テ形」に後接する「いる」「ある」「いく」「くる」「おく」「みる」「しまう」「やる (あげる) 」「くれる (くださる) 」「もらう (いただく) 」の10語が認められる。これらのうち,古代語から見られる「いる (ゐる) /ある」「いく/くる」「おく」「みる」は,「テ形」接続以前に,動詞連用形に直接する用法を有している。つまり,「動詞連用形+動詞」から「動詞連用形+テ+動詞」へという歴史変化があるように見えるのである。本発表では,この変化がどのように説明されるべきものであるかについてあらためて考察し,また,この現象の説明を通じて,日本語におけるどのような形式を「補助動詞」と呼ぶべきかについても併せて考察する。

16:55~17:00閉会の辞
小木曽 智信 (国立国語研究所)