Prosody & Grammar Festa 4

Prosody & Grammar Festa 4
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プロジェクト名・リーダー名
対照言語学の観点から見た日本語の音声と文法
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
共催
神戸大学大学院 人文学研究科
開催期日
2020年2月15日 (土) 14:00~17:30
2020年2月16日 (日) 10:00~16:20
開催場所
神戸大学 六甲台第2キャンパス 瀧川記念学術交流会館 (神戸市灘区六甲台町1-1)
アクセス
キャンパスマップ

参加費無料,事前申し込み不要

プログラム

2020年2月15日 (土)

14:00~17:30シンポジウム 「日本語と言語類型論」

  • 14:00~14:05
    開会のことば
  • 14:05〜14:40
    「最適性理論と言語類型論」
    田中 雄 (同志社大学)

    類型論の目標は,世界の言語が持つ多様性 (差異) と普遍性 (共通原理) を捉えることである。制約に基づく文法理論の「最適性理論」 (Prince & Smolensky 1993) は,複数の言語における一見異なる現象について,共通する背景要因があることを同一の制約を用いて表し,また制約の順位付けの違いによって言語間の差異を説明・予測するという点から,本質的に類型論的な性格を持つ理論だと言える (McCarthy 2002, 2008)。しかし,制約や順位付けの数の可能性が増えることにより,実在しないような言語の存在を予測するなど,過剰生成の問題も指摘される。本発表では,問題の一つの解決策として先行研究で提案されてきた,音声学的根拠に基づき制約およびその順位付けに制限を設けるという主張の是非を,類型論との関連において議論する。特に,音声学的根拠がなく類型論的に稀な特徴を持つ言語の存在を,最適性理論でどのように捉えるべきかという問題に着目し,言語獲得の観点から考察する。

  • 14:40〜15:15
    「認知言語学と言語類型論」
    守田 貴弘 (京都大学)

    類型論は意味の普遍性を仮定し,意味を表現する形式面の通言語的多様性や,類似形式がカバーする意味領域が言語ごとに異なる様相を探求する。その一方で,認知言語学では意味は概念化という考えを採用するため意味の普遍性は想定しにくく,形式の違いは概念化の違いとなるため極端な相対主義に結びつきやすい。つまり,類型論と認知言語学は相性が良くない。

    本発表では,認知言語学で用いられる「捉え方」 (construal) という考えが,言語形式が表す意味を説明するための装置なのか,外界の知覚・把握にまで踏み込むものなのかという区別があいまいであることを指摘する。その上で,空間ダイクシスの分析にもとづき,「捉え方」が言語形式の表す意味の説明にとどまるのであれば,類型論とも健全に相容れるものであることを主張し,この見方の下では,認知言語学が宿命的に引き起こす相対主義も fashions of speaking (Whorf) や thinking for speaking (Slobin) といった穏当な範囲にとどめることができることも示す。

  • 15:30〜16:05
    「生成文法と言語類型論」
    岸本 秀樹 (神戸大学)

    生成文法において,通言語的な普遍性および変異の可能性は,原理と変数によって捉えられる。本発表では,名詞修飾節の例をとって,言語間の変異をどう捉えるかについて検討する。ここで対象とする現象は,名詞修飾節の主語の格標示で,通言語的に見て主節と同じ格標示で現れることも修飾する名詞の与える格で標示されることもある。日本語およびマラティ語・シンハラ語を対照させながら,属格主語 (名詞修飾節の意味上の主語) が被修飾名詞に位置する場合と埋め込まれた名詞修飾節内に位置する場合があることを,いくつかの経験的な事実を見ることによって示す。

  • 16:05〜16:40
    「計算言語学と言語類型論」
    窪田 悠介 (国立国語研究所)

    「計算言語学」とは何か,そして計算言語学が「普通」の言語研究とどう関係するか (あるいはしないか) ということに関して,「普通」の言語研究をしている研究者の間であまり定まった見解が存在しないように思われる。そのため,まずそのあたりの整理をすることを発表の前半で試みたい。その上で,後半では発表者が関わっているプロジェクトである,日本語Parallel Meaning Bank (PMB) 構築をケース・スタディとしてとりあげる。PMBは多言語の構成的意味論をアノテートしたコーパスであり,現在までに,英語,オランダ語,ドイツ語,イタリア語のデータが作られている。このコーパスの日本語版構築を発表者らのチームは今年度から開始した。もともと欧米の言語のうち限られたものだけを対象に作られたコーパスを日本語のような類型論的に大きく異なる言語に拡張する作業は一筋縄ではいかない。日本語PMB構築を題材として,「普通」の言語研究と計算言語学がどのように関わりうるかということをさらに具体的に考えてみたい。

  • 16:55〜17:30
    「日本語の語順と言語類型論」
    山本 秀樹 (弘前大学)

    伝統的に言語類型論では,修飾・限定的要素ないし被支配項を,一貫してそれらに対する主要部ないし支配項の前に置く整合的OV型と,その正反対の語順を持つ整合的VO型が考えられてきた。日本語は,厳格な動詞末位語順を持つ,きわめて典型的な整合的OV型の言語であるが,世界諸言語全体について,統計的な分布で見ると不整合語順の言語も多数に上る。発表者は,約3,000言語の基本語順データを収集し,地理的な分布に着目することによって整合的語順類型の重要性,優位性を明らかにしてきた。すなわち,整合的OV型と整合的VO型のみが地球上を二分するかのように大きな連続的まとまりを成して存在し,不整合な語順類型は,一つのタイプで地理的に大きなまとまりを成すことはなく,整合的語順類型の周辺に,しばしば歴史的変化,言語接触といった要因を負いながら推移的に存在するにすぎない。日本語は,ユーラシア大陸北部に連なる地理的位置を反映するように,他の周辺諸言語と同様に整合的(S)OV型語順を呈している。

2020年2月16日 (日)

10:00〜11:45研究発表

  • 10:00〜10:35
    「名古屋方言における疑問文の音調と言語構造」
    田中 真一 (神戸大学)

    本発表では,名古屋方言のとくに疑問文の音調に着目し,それらの音韻・文法・意味構造との関わりについて分析する。名古屋方言の音調は,従来から,疑問詞疑問文における文末の下降音調についてしばしば指摘されてきたが,それ以外にも,文中の (語レベルの) 高低ピッチの変更など,特徴的な現象の観察されることを報告する。Braun (2018) による音調分析を対象とした疑問文の分類 (意味論的基準として Polar Question (PQ) と Wh-Question (WHQ) の2種, 語用論的基準として Information Seeking Question (ISQ) と Rhetorical Question (RQ) の2種,両者の組み合わせにより計4種) にもとづき調査文を設定し,各疑問文の音調について,音声学・音韻論両面から検討する。

    また,上記の疑問文 (とくに ISQ と RQ)に対する知覚調査を名古屋方言話者および他方言話者 (東京・近畿方言話者) を対象に行い,各疑問文に対する方言話者別の識別程度を比較するとともに,異同の要因を考察する。

  • 10:35〜11:10
    「ヒンディー語のとりたて表現」
    今村 泰也 (麗澤大学)

    本発表では,野田 (2015) で提案されたとりたて表現の意味分類に基づき,ヒンディー語のとりたて表現を分析する。発表では以下の諸点について述べる。

    (1) ヒンディー語には,「限定」「極端」「反極端」「類似」「反類似」を表すとりたて助詞と,「限定」「反極端」を表すとりたて副詞がある。「反限定」は重複表現によって表される。
    (2) ヒンディー語のとりたて表現は,文脈や文法的な環境によって,「類似」や「限定」のとりたて表現が「極端」の意味で用いられることや「反類似」のとりたて表現が「反極端」の意味で用いられることがある。
    (3) ヒンディー語のとりたて表現の位置は,とりたて助詞はとりたてる対象の後に置き,とりたて副詞はとりたてる対象の前に置くのを基本とする。ただし,その基本に従わないとりたて助詞もある。
    (4) ヒンディー語のとりたて助詞の tak (まで) は,後置詞の tak (まで) と形態が同じであるが,文法的振る舞いが異なる。

  • 11:10〜11:45
    「日本語名詞修飾構文の獲得」
    木戸 康人 (神戸大学)

    本発表は,日本語を母語とする幼児が名詞修飾構文をいつ,どのような順序で獲得するのかを明らかにすることを目的としている。特に,「ノ」の獲得順序に着目する。具体的には,2歳から4歳頃の日本語を獲得中の幼児は「赤いのブーブー」のように不必要な「ノ」を入れることが知られている。これまでの先行研究ではこの不必要な「ノ」は準体助詞,属格,補文標識のいずれかであると提案されてきた。しかし,幼児が発話している「ノ」が何なのかという問いに決着がついていないのが現状である。本発表では,名詞修飾構文の獲得順序に着目することを通して,これまでに提案されてきた提案はどれも幼児の発話を包括的に説明できないことを論じる。そして,代替案として,名詞修飾構文の獲得順序および「ノ」が何なのかを包括的に説明可能な新たな仮説として属格仮説を修正した修正属格仮説を提案する。

13:00〜14:20ポスター発表

14:30〜16:15研究発表

  • 14:30〜15:05
    「複数局面経路の言語表示類型 : 日本語と他言語の比較から」
    松本 曜,吉成 祐子,長屋 尚典,他

    NINJAL Project on motion event descriptions across languages のC実験のデータから,起点,通過点,着点のうちの2つ,あるいは3つすべてが含まれた経路をどのように諸言語が表現するかを比較する。比較する言語は,日本語,トルコ語,アラビア語,タガログ語,ノルウェー語である。その結果から以下のことが分かった。どの言語においても,起点よりも着点の方が言語化されることが多く,起点・着点の非対称性が見られる。その傾向は特にタガログ語で顕著である。また,起点・通過点・着点のどれを同じ動詞句内で表現するか (Bohnemeyer ほか) については,ノルウェー語が3つを1つの動詞句内で表現するI型,アラビア語,トルコ語は3つを別の動詞句内で表現するIII型であることが分かった。タガログ語は3つを一つの動詞句内で表すI型と,特に通過点を分けて従属節で表すII型の両方の傾向があり,日本語は,起点と着点を同じ動詞句で表すII型のほか,起点と通過点を同じ動詞句内で表す表現型も確認された。さらに,1つの動詞が起点・通過点・着点のいくつと共起するかという観点から経路の卓立性 (Ibarretxe-Antuñano) を見ると,高い方からノルウェー語,タガログ語,日本語,アラビア語,トルコ語の順となる。これらの結果について,経路動詞の意味的制約などから説明する。

  • 15:05〜15:40
    「日本語のモーラに基づく最小詞の (非) 字義的用法について : 形式意味論・対照言語学的アプローチ」
    澤田 治 (神戸大学)

    日本語のモーラを基盤とする最小詞「X.Y.ZのXの字」には,字義的用法 (例 : 「太郎は「いろは」の「い」の字も書けない」) と非字義的用法 (例 : 「太郎は「化学」の「か」の字も知らない」) の2つの用法がある。本発表では,字義的用法と非字義的用法は,ターゲットとなる表現の最初のモーラ (X) が焦点化されるという共通した特性を有しているものの,前者では,Xはモーラの数における最小値と捉えられているのに対し,後者では,Xはターゲットについての述語の程度 (例 : 知識の程度) における最小値と捉えられ,両者はスケール性と代替の計算に関して大きく異なる特性を持っていることを明らかにする。また,英語,ボスニア語における最小詞の非字義的用法との比較も行い,最小詞の非字義的用法の慣習性・生産性について通言語的な観点から検討する。最後に理論的な提案として,最小詞には局所的な最小詞 (local minimizer) (e.g. Chierchia 2013) と広域的な最小詞 (global minimizer) の2種類があることを示す。

  • 15:40〜16:15
    「名詞修飾表現の地理類型論 : 日本語と世界諸言語の対照から見えてくるもの」
    プラシャント・パルデシ (国立国語研究所)

    名詞修飾表現に関して,世界の多くの言語と比べたときに日本語は特異な言語であるか,それとも,日本語のような名詞修飾表現が他の言語でも頻繁に確認されるかは興味深い研究課題です。名詞修飾表現の対照研究班では日本語の名詞修飾表現の類型論的な位置づけを解明することを目指し,日本語とアジアやアフリカ諸語における名詞修飾表現の対照研究を行っています。また,言語間の類似点や相違点を可視化するために言語地図の作成も進めています。本発表では現在開発中である名詞修飾表現の言語地図の試作版の主な特徴を紹介し,今後の展望を述べます。

  • 16:15〜16:20
    閉会のことば