「日本の消滅危機言語・方言の記録とドキュメンテーションの作成」オンライン研究発表会 (2021年12月12日)

プロジェクト名・リーダー名
日本の消滅危機言語・方言の記録とドキュメンテーションの作成
木部 暢子 (国立国語研究所 言語変異研究領域 特任教授)
開催期日
2021年12月12日 (日) 10:30~16:50
開催場所
Web開催 : Zoom参加 (質疑参加希望者) もしくは YouTube Live配信 (視聴のみ)

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研究会の様子は同時に YouTube Live でも配信いたします。こちらはどなたでも視聴できます (視聴のみで質問は受け付けません)。

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令和3年度 第2回オンライン研究発表会

趣旨

本プロジェクトでは,日本の消滅危機言語・方言の文法記述のために毎年テーマを設けて研究発表会を開催してきましたが,このコロナ禍をうけ,今年度も当初予定していたテーマでの調査が困難な状況となりました。そこで,今回の研究発表会は,本プロジェクトの最終年度のまとめとして,これまでの調査から特に注目されるテーマについて共同研究員が自由に発表する会とすることにしました。研究会の最後には,6年間の締めくくりとして,改めて日本の消滅危機言語・方言の記録と継承の重要性を確認し,次の活動へつなげていく提案を行いたいと思います。なお,研究発表と質疑・応答はすべてオンラインで行います。

プログラム

10:30~10:35 あいさつ

10:35~11:15 (質疑応答を含む) 研究発表「長崎県藪路木島方言における助詞「ぞ」についての初期報告」 原田 走一郎 (長崎大学)

長崎県藪路木島方言には,以下に示すような助詞「ぞ」がある。
(1) おれあそこでぞ滑っち,こげんなケガばした「俺はあそこで滑って,こんなケガをした」
(2) 分かっちょっちぞ,おそゆる「分かっていたなら,教えているさ」
本発表では,この助詞「ぞ」がどのような環境に生起しうるかを整理する。

11:15~11:55 研究発表「琉球諸語の焦点助詞の機能」 狩俣 繁久 (琉球大学)

琉球諸語には係助詞があり,文末述語との間にある支配・被支配の関係 (係り結び) が活きているという見解があったが,狩俣 (2011) は,琉球諸語の沖縄語今帰仁謝名方言の du,ga,kuse:,沖縄語那覇方言の du,ga,宮古語下里方言の du,ga,nu,八重山語石垣方言の du を検討し,琉球諸語には係り結びが無いこと,係助詞の機能が焦点化なら,これを焦点助詞と呼ぶべきことを論じた。文の最も重要なモダリティを表す述語の形式を焦点助詞は支配せず,逆に複数の焦点助詞があるとき,どれが現れるかはモーダルな文のタイプが決めていることを述べた。狩俣 (2019) は焦点助詞 du をとりたて表現の中に位置づけ,特立を表すことを述べた。狩俣 (2020) は,du が文中の何・どこに焦点を当てるかをモーダルな文のタイプごとに述べた。本発表では焦点助詞をとりたて表現の一つの形式と見たとき,どんな機能を果たすのか,どういう状況で現れるかを沖縄語伊江島方言,名護市久志方言,宮古語西里方言等の調査資料に基づいて論ずる。

11:55~13:30 昼休み

13:30~14:10 研究発表「琉球諸語の使役文」 當山 奈那 (琉球大学)

琉球諸語の使役文は,形態論的な特徴として,ス形式とシム形式を持つ方言,ス形式のみを持つ方言,シム形式のみをもつ方言がある。また,構文論的な特徴として,間接使役文 (二重使役文) を持つ方言と持たない方言とがある。間接使役文を持つ方言では,その作り方にス形式によって間接使役文を作るか,シム形式によって間接使役文を作るかという違いがみられる。本報告では,上記について,琉球諸語のいくつかの方言を取り上げて示し,間接使役文とス形式,シム形式の関係についても考察する。

14:10~14:50 研究発表「宮古語大神方言 動作や変化の局面に関わる諸形式」 金田 章宏 (千葉大学)

宮古語大神方言には,動作や変化の開始の局面,持続の局面,終了の局面などにいくつもの文法形式や補助的な単語が用意されている。この発表ではそれらの整理をおこない,局面にかかわる表現形式の全体を確認する。おもなものは,kumata,kata,kami,ku:kam,m:ti:uL,などである。

14:50~15:00 休憩

15:00~15:40 研究発表「『どぅなんむぬい辞典』に見られる現在の与那国方言の諸特徴」 中澤 光平 (東京大学)

本発表では,『どぅなんむぬい辞典』の例文をもとに,現在の与那国方言の特徴についてまとめる。
具体的には,次のような点について述べる。
・「どぅ」の非焦点マーカー化
・「てぃ」の非継起接辞化
・係り結びと無関係な連体形の終止用法
また,これらの特徴の一部は,少なくとも最近生じたものではない可能性があることを,COJADS のデータをもとに示す。

15:40~16:20 研究発表「琉球諸語における除括性 (clusivity) ―調査票の提案と今後の展望」 下地 理則 (九州大学)

本発表では,琉球諸語における除括性 (clusivity),すなわち1人称非単数代名詞における除外と包括の対立に焦点を当て,除括性に関する類型的一般特徴に照らしながら,琉球諸語のデータが提示する問題点を議論するとともに,関連すると考えられる諸要因を変数とした調査票を提案する。言語類型論において,除括性に関して3つの主要なパターンが確認される一方 (Type 1-3),Type 4 は存在が報告されていない (Cysouw 2005, Bickel and Nichols 2005)。

Type 1 : 除外・包括の区別なし
Type 2 : 除外と包括にそれぞれ特化した形式が存在する
Type 3 : 包括に特化した形式だけが存在する
*Type 4 : 除外に特化した形式だけが存在する

琉球諸語20言語のデータをもとにすると,Type 1-3のいずれも存在することが確認された。本発表ではさらに,上記タイプのいずれにも分類できない新たな方言の存在を報告する。沖縄語北部方言(今帰仁村,瀬底島の諸方言など)の1人称複数「私たち」にはワッター系とアガ系の2系列あることが知られており,ワッター系は聞き手を含まない除外形,アガ系は聞き手を含む包括形であるというのが定説である (内間 1979 ほか多数)。ところが,現在発表者が進めている調査により,今帰仁村謝名方言はこの定説によっては説明できない体系を持ち,かつこれまで類型論で知られている除外・包括のいかなる体系とも異なることが明らかとなった。本発表では,現時点で得られている限られた調査データをもとに,この方言の体系の類型的位置付けも議論してみたい。

16:20~16:50 総括のことば
木部 暢子 (国立国語研究所)