文字さんぽ

小書きの仮名

「ケンキウ(研究)」「チウサ(調査)」などの拗音,「はきり」のような促音,「フイル」「インフーマント」などの外来語音を書き表すために,小書きの平仮名・片仮名が使われます。このように,日本語表記では,大きさの違う文字を使い分けることで,違う音を書き分けています。

アイヌ語は固有の文字を持っていませんが,江戸時代以降,片仮名やローマ字を使って,アイヌ語を書き取ることが行われてきました。また,大正時代のころから,アイヌ自身がローマ字・平仮名・片仮名などを用いて,アイヌ語を書き残しています。北海道ウタリ協会のアイヌ語教科書の名前は「アコ イタ」といい,「アイヌ語」を意味するアイヌ語を片仮名で書き表したものです。ここでは,小書きの片仮名「」「」が使われています。

アイヌ語と日本語とでは,使っている音の数も構造も異なります。アイヌ語は子音で終わる音(閉音節)を持っているため,母音で終わる音(開音節)が基本の日本語用文字である片仮名では,アイヌ語の音をすべて適切に写し取ることができません。「アコ イタ(a=kor itak)」は,単語の末尾にくる子音/r/ /k/を書き表すために,小書きの片仮名「」「」を用いたアイヌ語表記法によるものなのです。このほかに,「チェ(cep・魚)」「ヤ(yam・栗)」「ウパ(upas・雪)」などで小書きの片仮名が使われます。

2008年6月韓国釜山市内にて撮影
2008年6月韓国釜山市内にて撮影

さて,写真は韓国釜山市内の商店の表示です。日本からの観光客向けに書かれた日本語です。ここでは,「システ」と,小書き片仮名「」が使われています。英語のsystemは子音/m/で終わる単語です。外来語として日本語になると,子音/m/の後ろに母音/u/を付けて,全体で「システム」と書かれます。これは,日本語が撥音「ん」と促音のほかに閉音節を持っていないためです。韓国語は,英語やアイヌ語と同じように,閉音節を持っている言語なので,日本語とは違い母音/u/を付けずに発音することができます。「システ」は,小書き片仮名「」を使って閉音節を書き表した,韓国の人による片仮名表記だと考えられます。誤用と片付けてしまうのは簡単ですが,背景には,日本語と他言語との違いがあります。

(高田 智和)