令和4年度 第1回「危機言語の保存と日琉諸語のプロソディー」合同研究発表会
- 開催期日
- 2022年5月28日 (土) 10:00~16:00
- 開催場所
- Web開催 : Zoom 参加 (質疑参加希望者) もしくは YouTube Live 配信 (視聴のみ)
- 主催
- 国立国語研究所 共同研究プロジェクト 「消滅危機言語の保存研究」
国立国語研究所 共同研究プロジェクト 「日本・琉球語諸方言におけるイントネーションの多様性解明のための実証的研究」 - 参加申し込み
受付は終了しました。お申し込みありがとうございました。
- 研究会の様子は同時に YouTube Liveでも配信いたします。こちらはどなたでも視聴できます (視聴のみで質問は受け付けません)。
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- キーワード
- 研究発表会・シンポジウム、オンライン開催、方言、琉球諸語、音声・音韻
趣旨
2022~2028年度に行う日琉語諸方言の保存研究と、日琉語諸方言のイントネーション研究プロジェクトの共同研究員による研究発表会です。第1回目の今回は両プロジェクトの紹介も兼ねて、いくつかのサブプロジェクトの中心となる共同研究員が研究発表を行います。
科研費基盤研究 (B) 「南琉球宮古諸方言のアクセントに関する調査研究」 (代表 : 新田哲夫 (金沢大学) 課題番号 : 20H01259) との共同開催です。
プログラム
- 10:00~10:10
- プロジェクト「日琉諸語のプロソディー」について
- 五十嵐 陽介 (国立国語研究所)
- 10:10~10:50 (質疑応答を含む)
- 研究発表 「宮古諸島における「韻律領域の拡張」と多良間島のプロソディー」
- 松森 晶子 (日本女子大学)
- 五十嵐ほか (2012) における池間島の3型アクセント体系の発見を皮切りにして、 (宮古島の与那覇 (よなは)、狩俣 (かりまた)、上地 (うえち) や多良間 (たらま) 島などの) 宮古諸島の諸方言には、琉球祖語の3つの型の区別に対応する3種類の型が、明瞭に区別される韻律体系が存在することが明らかになってきている。そして現在、それら3型体系の仕組みの多様性がどのようにして生じてきたかについての考察も、活発に成され始めている。
- 本発表では、これら先行研究における記述結果や多良間島の調査データを使用しながら、まず、宮古諸島のプロソディー体系の基本音調を L*H と設定する提案を行う。またこの宮古地域には「韻律領域の拡張」 (窪薗 2021 : 256) が広範囲にわたって生じた (ている) 可能性があること、そして多良間島においては、その基本音調 L*H の最後の H 音調は原則的に韻律句のレベルではじめて出現することを論じる。さらに本発表では、これまで「無核型」と記述されてきた多良間島の A 型は、実は (最大) 3つ目の韻律語 (あるいは韻律句) に核を持つ「有核型」である可能性があり、その特徴も原則的に韻律句レベルにおいてはじめて実現するものであることも、あわせて論じる。
- 最後に、今後の宮古諸島のプロソディー研究において、我々が特に焦点を置いて調査・記述すべき課題について論じる。
- 10:50~11:30
- 研究発表 「八重山語小浜方言の中舌母音の摩擦音化について」
- クリストファー・デイビス (琉球大学)
- 八重山語における中舌母音が音声上で摩擦音 [s] または [z] のような音を伴って発音されることがよく観察される現象である。小浜方言では、母音と子音の無声化のため、音声上では中舌母音そのものの存在が確かめにくいが、それに伴う摩擦音 [s] が観察されることが多い。そこで可能性として、(1) その摩擦音 [s] が無声化した中舌母音に伴うものとして分析するか、(2) 中舌母音そのものが通時的に摩擦音と変化してきて、共時的にその [s] が独立した子音であると分析するか、といった二つの分析が可能である。後者の分析を裏付ける証拠となるデータを提供し論じる。
- 11:30~11:40
- 休憩
- 11:40~11:50
- プロジェクト「危機言語の保存」について
- 山田 真寛 (国立国語研究所)
- 11:50~12:10
- 報告 「新しい危機言語 DB について」
- セリック・ケナン (国立国語研究所)
- このプレゼンテーションでは前年度にリニューアルした危機言語データベースを紹介する。新しい DB では、刷新された語彙システムにより、日琉諸語に特化した複雑な語彙編集と公開が可能となった。このデモンストレーションとともに、今期のプロジェクトの語彙編集の可能性について述べる。
- 12:10~12:50
- 研究発表 「Omeka S を用いた日本の危機方言のためのデジタルアーカイブの構築 : デジタルヒューマニティーズにおける世界標準 (TEI・IIIF・ダブリンコア) の適用」
- 宮川 創 (国立国語研究所)
- 本発表では、現在デジタルヒューマニティーズにおいて世界標準となっている形式や枠組みを効果的に用いた、日本の危機方言のためのデジタルアーカイブの構築について論じる。まず、文字資料のテキスト構造化の世界標準となっている TEI、画像資料の相互利用枠組みの世界標準となっている IIIF、および、メタデータの標準であるダブリンコアの歴史と現在の動向について説明する。この際、『日本言語地図』等、方言関連地図をどのように IIIF を用いて表示させるかや、方言のグロス付き資料や辞書をどのように TEI でマークアップするかを論じる。その後、米国ジョージ・メイソン大学ロイ・ローゼンツヴァイク・歴史・ニューメディアセンター (CHNM) が提供している CMS (コンテンツ管理システム) である Omeka S を使用した、現在構築中の、日本の危機方言関連資料のデジタルアーカイブについて議論する。この Omeka S を用いると、TEI、IIIF、ダブリンコアなどの世界標準を用いたデジタルアーカイブを、複数人で共同で効率的に開発することができる。
- 12:50~13:50
- 昼休み
- 13:50~14:30
- 研究発表 「琉球諸語における除括性 (clusivity) の類型的特徴と通時変化」
- 下地 理則 (九州大学)
- 本発表では、琉球諸語の記述研究で長く注目されてきた類型特徴である除括性 (「私たち」における除外・包括の区別) に関して、その膨大な研究史を概観するとともに、現時点で確認されている共時バリエーション、通言語的にみた場合の類型論的特徴、通時変化のシナリオについて議論する。特に、除外・包括の区別が消滅する過程にあるいくつかの方言に着目しながら、除外形が包括形を追い出す形でその区別が消滅するパターンが琉球諸語には顕著であることを示す。これは、除括性の類型論で提案されている一般化「除外・包括の区別の消滅に際しては、ほとんどの場合、包括形が拡張されて除外形が消滅する」 (Filimonova 2005 の Generalization 13) に対する反例であり、琉球諸語の除括性の研究が類型論に対してもたらす貢献が大きいことを確認する。
- 14:30~15:10
- 研究発表 「命令表現における文末音調の記述 ―愛媛県松山市方言を事例に―」
- 久保 博雅 (広島経済大学)
- 本発表では、愛媛県松山市方言における命令表現 (命令形命令、連用形命令、テ形命令など) について、各形式が伴う文末音調に焦点を当て、その記述と、音調が命令表現の発話機能にもたらすはたらきについての分析を述べる。なお、本発表における「文末音調」には、上昇・下降のほか、終助詞が後接する際のピッチも含める。
- 15:10~15:50
- 研究発表 「新しい話者のための言語継承アプローチ : 第二言語習得理論から琉球諸語の継承を考える」
- ズラズリ 美穂 (ロンドン大学 東洋アフリカ研究学院 博士課程)、半嶺 まどか (名桜大学)
- 琉球諸語は伝統的に琉球諸島で話されている日本語の姉妹言語であるが、過去半世紀の間に琉球諸語の世代間継承が急速に衰退したことに伴い、世代間の記憶の断絶に伴うアイデンティティの混乱もしくは存在不安が若い世代に影を落としている。また、琉球諸語の再活性化に取り組む研究者や活動家が増えているにもかかわらず、琉球諸語を継承言語として学ぶ新しい話者が必要としている支援体制はまだ万全とはいえない。本発表では、現在、我々が様々な分野の研究者や活動家、話者、学習者を対象に実施しているインタビュー調査の中間所見に基づいて、今後、新しい話者を支援するための学際的連携を実現するうえで考慮すべき課題と、学習者の言語習得過程とアイデンティティ、感情、言語態度の変化について考察する。