日本言語学会第164回大会 ワークショップ
「日琉祖語再建に向けての新たな展望 : 琉球諸語の視点から」

開催期日
2022年6月19日 (日) 10:00~12:00
開催場所
Web開催
主催
国立国語研究所 共同研究プロジェクト 「日本・琉球語諸方言におけるイントネーションの多様性解明のための実証的研究」
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申込方法は日本言語学会ホームページを参照してください。

  • 要事前登録 (有料)
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日本言語学会第164回大会情報

キーワード
研究発表会・シンポジウム、オンライン開催、日本語史、方言、琉球諸語、語彙・意味、日琉祖語、琉球祖語、歴史比較言語学

共同研究プロジェクト「日本・琉球語諸方言におけるイントネーションの多様性解明のための実証的研究」 (代表 : 五十嵐陽介) の共同開催で、琉球祖語に関するワークショップを日本言語学会第164回大会 (6月19日) で開きます。

趣旨

日本本土で話される日本語諸方言と琉球列島で話される琉球諸語は同系統で、同じ祖語に遡ることは (国内に限定すれば) 19世紀末以降よく知られている (田代1888、1894、Chamberlain 1895)。この祖語は「日琉祖語」 (proto-Japonic または proto-Ryukyuan-Japanese、本ワークショップでは pJ) と呼ばれてきた。日琉祖語はそれを知る文献が存在しないことから、もっぱら歴史比較言語学の手法によって再建されるが、この再建作業が日本列島で話される言語の歴史を知る上では重要な研究課題である。

日琉祖語を再建するに当たっては、本来それに遡る言語を全て参照することが理想であるが、これまでの研究では日本語、とりわけ文献の日本語への偏りが目立つ。例えば、文献日本語以前の言語体系の再建を目指してきた Whitman や Frellesvig の一連の研究 (Whitman 1985、2008、Frellesvig & Whitman 2008等々) は多くの成果をあげているが、琉球諸語のデータを殆ど参照していない。これに対して、琉球諸語のデータを取り入れた研究として、服部 (1978-79)、Martin (1987)、ペラール (Pellard 2013、Pellard to appear) 等が挙げられる (また琉球祖語の再建に的を絞った Thorpe (1983)も特筆に値する)。これらの研究を通じて、日琉祖語を再建するためには琉球諸語の視点が欠かせないことが示されたが、これらの研究は大きな制約のもとに成されてきた。すなわち、最新の研究までも含め、琉球諸語に関するデータ (文法、語彙、アクセント等) が限られていた状況が続いていた。しかし、現在はこの状況が全く変わりつつある。

国内における記述言語学の近年の活発化により、とりわけ琉球諸語に関するデータが目覚ましいペースで蓄積されつつある。中でも、琉球の各方言の辞典や語彙集が毎年数冊のペースで新たに公刊される状態が続いており (例えば八重山語鳩間 : 加治工 (2020)、宮古語多良間 : 渡久山・セリック (2020) 等)、通時的な考察の基礎となる語彙データが急速に増えている。このような新しいデータを取り入れることによって、琉球祖語や日琉祖語をこれまでにない精度で再建することが大いに期待できる。つまり、まさに今こそが従来の説の妥当性を緻密に検討し、新たな仮説を提示できる好機であると言える。

以上を踏まえて、本ワークショップでは、近年データの増加が著しい琉球の視点から日琉祖語の再建に向けての新たな可能性を探る。まず、発表1では琉球祖語に再建されるアクセント体系の最新の仮説を提示しながら、日琉祖語の韻律体系の再建に関する課題について述べる。続いて、発表2では日琉祖語で非狭母音の *e と *o を再建する根拠となる琉球祖語と上代日本語との対応 *e :: i1、*o :: u (服部 1978-79、Pellard 2013) を再検討し、その対応が必ずしも妥当でないことを指摘する。次に、発表3では、語形成という新しい観点を取り入れて、琉球と日本語で見られる2拍名詞のアクセント類の対応 B :: 4、B :: 5、C :: 4、C :: 5 が日琉祖語に遡るものではなく、琉球祖語に起きた二次的な変化の結果であるという仮説を提示する。最後に、発表4では日琉祖語の語形成を対象とし、琉球のデータを活用しながら日琉祖語に再建される2拍以上の語はその多くが通時的に単純語ではなく、複数の形態素に分解できる複合語や派生語であるとする仮説を提示する。その上で、語形成と声調体系の成立との関連性について指摘し、この発表で提示する仮説が持つ意義について述べる。

プログラム

  • 企画 : セリック・ケナン (国立国語研究所)
  • 司会 : 青井 隼人 (ILOLi)
  • コメンテーター : 平子 達也 (南山大学)
  • 発表者 (発表順) : 松森 晶子、 中澤 光平 、五十嵐 陽介、セリック・ケナン
1. 趣旨説明
  • セリック・ケナン (国立国語研究所)
2. 研究発表
  • 発表1「日琉祖語の韻律体系再建に向けて ―今後の課題―」
  • 松森晶子 (日本女子大学文学部)
  • 発表2「琉球祖語における非狭母音 *e、 *o の再建の再検討」
  • 中澤光平 (信州大学)
  • 発表3「2音節名詞第4/5類に対応する琉球祖語 B 類は改新であるとする仮説」
  • 五十嵐陽介 (国立国語研究所)
  • 発表4「(先) 日琉祖語の語形成に関する試論」
  • セリック・ケナン (国立国語研究所)
3. コメンテーターによる評価
  • 平子 達也 (南山大学)
4. 全体討論
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