令和5年度 第1回「危機言語の保存と日琉諸語のプロソディー」合同研究発表会
- 開催期日
- 2023年6月10日 (土) 10:00~15:50
- 開催場所
- 国立国語研究所 多目的室 (東京都立川市緑町10-2) 交通案内
- オンライン (Web会議サービスの「Zoom」を使用)
- 主催
- 国立国語研究所 共同研究プロジェクト 「消滅危機言語の保存研究」
国立国語研究所 共同研究プロジェクト 「日本・琉球語諸方言におけるイントネーションの多様性解明のための実証的研究」 - 参加申し込み
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- h-oshima[at]ninjal.ac.jp ([at]を@に変えてください。)
- キーワード
- 研究発表会・シンポジウム、オンライン開催、方言、音声・音韻、語彙・意味、文法、文字・表記、琉球諸語、危機言語・方言
趣旨
2022〜2028年度に行う日琉語諸方言の保存研究と、日琉語諸方言のイントネーション研究プロジェクトの共同研究員による研究発表会です。プロジェクト2年目の第1回目の今回はイントネーションプロジェクト (五十嵐陽介) によるワークショップおよびプロジェクトの共同研究員による音声、文法、言語復興に関する様々な研究発表を行います。
プログラム
- 10:00〜10:40
- 研究発表 「日琉諸語の韻律体系における culminativity と obligatoriness」
- 五十嵐 陽介 (国立国語研究所)
- 日琉諸語の韻律体系は多様性に富む。この多様性は、韻律研究一般、特に類型論的研究の発展に大きく貢献するはずである。しかしながら、世界の言語を対象とした韻律の類型論的研究では、日本語標準変種以外の日琉諸語の体系が議論の俎上に上ることはほとんどない。この不幸な状況を生んだ原因を言語の壁、すなわち日琉諸語の韻律体系を扱う論文の多くが日本語で書かれているという事実に求めるのは困難である。むしろ、日琉諸語を専門としない研究者による日琉諸語の体系の理解を阻害してきたのは、日本の韻律研究者によって使用される特異な概念や枠組みである。日琉諸語の韻律体系に関する知見が世界中の研究者に広く共有されるためには、一般的に受け入れられている枠組みを用いて日琉諸語を記述する必要がある。本ワークショップでは Hyman による世界中の言語を対象とした韻律類型論で用いられている類型論的パラメータ、culminativity と obligatoriness を取り上げ、これを日琉諸語の記述に適用する際に生じる諸問題を論じることを目的とする。
- 10:40〜10:50 質疑応答
- 10:50~11:30 セリック・ケナン氏、平子 達也氏、青井 隼人氏によるコメントおよびディスカッション
- 11:30~13:00 昼休み
- 13:00~13:40
- 研究発表 「北琉球沖縄語伊平屋方言のアクセント体系を考え直す」
- サルバトーレ・カルリノ (大東文化大学)
- 本発表では発表者の今までの伊平屋方言のアクセント体系の記述の問題点について考え直し、新しいデータに基づいてより精密な記述を提案する。
- 13:40~14:20
- 研究発表 「八重山語小浜方言の3型のアクセント体系について」
- セリック・ケナン (国立国語研究所) 、麻生 玲子 (名桜大学)
- 本発表では、南琉球八重山語小浜方言のアクセント体系に関する調査結果を報告する。第一に、複合名詞が3つの異なる音調が区別されることを示した松森 (2015) に続き、単純名詞も3つのアクセント型が区別されることを示す。第二に、各アクセント型の実現を環境ごとに記述し、その音韻的解釈に関する草案を提示する。最後に、系統的に近い古見方言と宮良方言も取り上げ、これらの方言における単純名詞のアクセント体系について簡単に検討する。
- 14:20~14:30 休憩
- 14:30~15:10
- 研究発表 「宮古語諸方言での名詞句階層でみる複数性表現に関する予備的調査報告」
- 大島 一 (国立国語研究所) 、セリック・ケナン (国立国語研究所)
- 本発表では宮古語諸方言の名詞の複数形式について実施した予備的な調査結果を報告する。まず、宮古語諸方言では呼称形・非呼称形 (=ガ・ノ交代) による二つの形式が用いられるが、複数形式とそれらの複数形式の名詞への付き方は諸方言により多様であることが観察された。また、日本語共通語ではふつう非ヒト名詞に複数形式は付けられないが、宮古語諸方言では (他いくつかの本土諸方言同様に) 非ヒト名詞にも複数形式の付加が可能であり、かつ、地点によってその付けられ方は多様である。この理由について、当該現象には様々な要因が関与すると考えられ、これらの要因について整理する。
- 15:10~15:50
- 研究発表 「衰退・消滅の危機にある静岡井川方言の現状とその再活性化」
- 谷口 ジョイ (静岡工科大学)
- 本発表は、衰退・消滅の危機にある静岡・井川方言の現状について報告するものである。大井川最上流域に位置する旧井川村 (現在の静岡市葵区井川) は、険しい山や渓谷に阻まれ、長く周辺地域から隔絶されていた。旧井川村で用いられる井川方言は、中部方言で唯一、無アクセントであるなど、周辺とは異なるさまざまな言語的特徴が見られるが、その話者は激減している。本発表では、54名の井川方言話者を対象とした個人面接法による調査に基づき、井川方言に特徴的なアクセント、語彙、表現という観点から、方言衰退の様態を可視化する。また、2022年度には、「言語の多様性に関する啓蒙・教育プロジェクト (日本言語学会) 」において、①井川方言の音声・動画コンテンツをインターネット上で公開、②井川方言を紹介する子ども向け冊子を作成・配布、③井川地域の住民を対象としたシンポジウムの開催、といった活動を行った。こうした井川方言の継承や再活性化の重要性を伝える活動についても紹介する。