研究室から:『分類語彙表』増補改訂版について

『分類語彙表』とは

『分類語彙表』は1964年(昭和39年)に国立国語研究所資料集として刊行された日本語のシソーラス(類義語集)です。

刊行当初から,国語の研究だけでなく言葉に関心を持つ人たちに幅広く利用されてきましたが,刊行から時間が経つにつれ,現代語とのずれが生じるようになり,内容を新しくしてほしいという声が高まってきました。また,コンピューターによる言語処理への応用などを考えると,収録語数をもっと増やす必要も出てきました。

このような要望に応えるため,国語研究所ではこれまで試行的に言葉の追加作業を進めてきましたが,このたび一定の増補改訂が完了したのをうけて,報告書として刊行することにしました。

『分類語彙表』初版(現在では絶版)
『分類語彙表』初版(現在では絶版)

「シソーラス」とは

通常の国語辞典は,言葉を五十音順に配列して意味を説明するという形をとっていますが,実は五十音順の配列というのは,たくさんの言葉を探しやすくするための便宜的な手段に過ぎません。

言葉の重要な役割は,「意味」の伝達です。したがって,意味を基にして似た意味の言葉を集めてそれを配列するという方法が言葉の実態から考えると自然な姿といえます。日本でも,意味分類による辞書のほうがイロハ順のような発音から引く辞書よりも古くからありました。

しかし,意味にははっきりした境界線が引きにくいため,客観的な分類が困難です。また,意味には原則として特定の順序が存在しないので,意味を基準にして言葉を集めて配列するには,なんらかの工夫が必要になってきます。例えば,ひとつの言葉のグループの中にさらに小グループを作るとか,関連する言葉のグループを相互に参照できるようにするなどです。そのような工夫がなされた言葉の意味分類が「シソーラス」です。

シソーラスは,似た意味の言葉を集めるということが主眼なので,意味の説明は必ずしも必要ではありません。見方を変えれば,言葉の分類そのものが意味の説明になっているともいえます。『分類語彙表』では,意味の説明は省いています。

分類のしくみ

『分類語彙表』は,数字を利用した構造的な分類体系をとっています。

例えば,「情報」という語は,「1.3123」という分類番号を持つ〈伝達・報知〉という分類項目に置かれています。

この「1.3123」という分類番号は,次に示すような構造を持っています。

図1 分類番号の構造
図1 分類番号の構造

まず,最初の1けたは,品詞分類に相当します。

1 名詞の仲間-体の類
2 動詞の仲間-用の類
3 形容詞・形容動詞・副詞等の仲間-相の類
4 その他の仲間(接続詞・感動詞など)

『分類語彙表』の特徴のひとつに意味的な分類と文法的な分類を両立させた点があげられます。文法的な分類の代表である品詞のうち重要な役割を果たすものを選んで,前ページのように4つの「類」に大別しました。

とくに1~3の類は,日本語の文法的特性を考える上の基本的な枠組みで,意味的にはそれぞれ,もの・動き・ありさまという包括的な概念に対応するものです。

次に,分類番号の2けた目(小数点第1けた目)は,「部門」に相当します。「部門」とは,「類」の中を意味的に大きな概念で分けたもので,次の5つの「部門」を立てました。部門は,それぞれの「類」に共通するものですが,意味的な対応が存在しないところもあります。

各類と部門との対応は図2のようになっています。

図2 「類」と「部門」との関係
図2 「類」と「部門」との関係

また,今回の増補にあたって「中項目」を設けました。これは,分類番号の2けた目と3けた目を合わせた部分に相当します。「中項目」は,「部門」より小さい概念で,その下の分類項目をまとめる働きをします(図1参照)。

分類項目一覧表

主な増補改訂の内容

(1)収録語数

初版の『分類語彙表』は,国語研究所が手掛けた「現代雑誌九十種の用語用字調査」(1956~1964)の結果を基に,学習基本語彙などを追加し,およそ3万3千語を収録していましたが,今回の増補改訂版では,これを約7万9千語(延べでは約9万5千語)に増やしました。これは,小型国語辞典の見出し語の数にほぼ匹敵します。増補にあたっては,日常的に使用される語句を中心に,国語研究所が行った語彙調査の結果なども参考にしました。

(2)複合語・慣用句

初版の『分類語彙表』は,「現代雑誌九十種の用語用字調査」の結果を基にしたものでしたが,この調査では,語句を短い単位に分割していたので,複合語や慣用句などがあまり収録されていませんでした。

例えば,「驚く」の類義語として,初版では次のような語があがっていました(8語)。

驚く 驚かす おどかす おどす 驚き入る
たまげる ぎょっとする はっとする

増補改訂版では,漢語サ変動詞,慣用句,連語などを増補するとともに,語句の組み替えなども行いました。その結果,収録語句は50となり,類義表現の幅が広がりました。

驚く 驚かす 脅(おど)かす 一驚する 驚嘆する
びっくりする と胸をつく 喫驚する 仰天する あっと言わせる
ぎょっとする ぎくりとする どっきりする どきりとする どきんとする
はっとする ひやりとする ひやひやする 肝を冷やす 気をのまれる
驚愕する 驚倒する 震駭する 震撼する
驚き入る たまげる おったまげる ぶったまげる
度肝を抜く 度肝を抜かれる 肝を消す 肝をつぶす 肝を奪う 荒肝を抜く 荒肝をひしぐ
動転する 目を白黒させる/を丸くする 目が点になる 腰が抜ける 腰を抜かす
舌を振るう 舌を巻く 息をのむ
目をむく 目の玉/目玉が飛び出る
固唾(かたず)をのむ 手に汗を握る
目を疑う

(3)多義語

基本語の多くは多義的です。「開(ひら)く」は,〈閉じていたものがあく〉という基本的な意味のほかに,「店を開く」という場合の〈物事を始める〉という意味,「原野を開く」場合の〈開墾する〉など,異なる意味で用いられます。

これらの別々の意味を持つ「開く」は,それぞれ違った分類項目に置かれなければなりません。初版でも多義語の処理は,ある程度は考慮されていましたが,全体としては不十分でした。今回の増補改訂版ではこの点を改良して,同じ言葉を意味に応じてできるだけ何か所にも分類するようにしています。

図3 「開(ひら)く」の多義性を反映した分類
図3 「開(ひら)く」の多義性を反映した分類

(4)分類項目の対応

今回の改訂にあたって,できるだけ「体の類」の分類項目と「用の類」の分類項目とが水平的に対応するようにしました。ただし,個々の分類項目の対応については,言葉の意味の性質から,必ずしもうまく対応するとは限らない場合もあります。なお,組み替えは行いましたが,分類の大枠そのものは初版を受け継いでいます。

一例として,「開閉・封」の分類項目の対応を図4に示しました。

図4 分類項目の対応
図4 分類項目の対応

『分類語彙表』の利用

一般に,シソーラスは文章を書く際に目的とする言葉を見付けるために利用されたり,言語教育において,基本的な語彙を選定するための基礎資料として利用されてきました。

近年では,言語研究における利用が盛んになってきました。語彙の体系的研究や言語処理の分野においては,不可欠な資料とみなされています。

今回の増補改訂版も,専門的な分野にとどまらず,有益な資料として幅広く活用され,社会生活に役立つことが期待されています。

(山崎 誠・小沼 悦)

  分類語彙表-増補改訂版データベース:http://www.ninjal.ac.jp/archives/goihyo/