消滅危機言語の保存研究
- プロジェクトリーダー
- 山田 真寛 (国立国語研究所 准教授)
- 実施期間
- 2022年4月~
- 関連サイト
- 日本の危機言語
概要
研究目的
「いま何もしなければ」近い将来なくなってしまう消滅危機言語が、日本には8つ (アイヌ語、八丈語、6つの琉球諸語) あるとユネスコが2009年に報告しました。私たちはこの報告では言及されていないこれらの下位分類 (方言) や日本語本土諸方言など、ほとんどの地域言語が同様の危機に瀕していると考えます。文法記述・辞書・談話資料などによって、このような地域言語の記録を残す、言語の「記録保存」がこのプロジェクトの大きな目的の一つです。
言語は、記録保存-体系的な理解があれば、話す人が (ほとんど) いなくなってしまった後でもよみがえらせることが可能です。また、より多くの個別言語を理解することは、人間言語の本質的な理解に近づくことになります。多くの地域言語の流暢な話者が高齢である現在、言語の記録保存は喫緊の課題です。
その一方で、ある言語を話す人たちにとっては、彼らの言語の記録保存だけでは「じぶんたちの言語が残っている・なくなっていない」とは感じにくいでしょう。私たちはフィールドワークをとおして非常に多くの言語コミュニティメンバーと関わりますが、彼らがじぶんたちの言語に対して思う「残したい・なくなってほしくない」という気持ちは、言語の「継承保存」の実現がほとんどだと思います。これは、現在は途絶えている世代間継承を再開させ、それを維持することで生きた言語を残すことと言い換えることができます。
実は、言語の継承保存にとっても記録保存は必須の課題なのです。例えば、消滅の危機に瀕した言語を「今は (流暢には) 話せないけれど話せるようになりたい」と思う言語コミュニティメンバーにとって、辞書や文法の解説、習得のための教材や実際の会話が聞ける音声や動画が役に立つことは想像しやすいと思います。これらはまさに、言語の記録保存の産物そのものや、それを利用したものなのです。
言語の記録保存は、その言語のコミュニティメンバーとの協働作業です。彼らがじぶんたちの言語を残したいと望むなら、その一翼を担う私たちが彼らの希望を実現させるための研究を行うのは自然なことではないでしょうか。

研究計画・方法
日琉語諸方言の保存研究を、以下の3つの柱を軸にして進めます。(1) 日琉語諸方言の文法記述・辞書・談話資料の収集、(2) 過去の談話資料の電子化、(3) これらのアーカイブと公開。
- 日琉語諸方言の文法記述・辞書・談話資料の収集
国内外の機関に所属する共同研究員約70名が、担当する地域言語の文法、語彙、談話に関する資料をフィールドワークによって収集します。これは多くの場合、地域言語の話者との面談調査をとおして、文字、音声、動画資料を言語データとして蓄積していきます。 - 過去の談話資料の電子化
文化庁が1977年度から1985年度にかけて行った「各地方言収集緊急調査」 (文化庁) の多くが、音声資料と手書きの文字起こしとして未公開のまま保管されています。一部は『全国方言談話データベース日本のふるさとことば集成』 (2001~2008、全20巻) として公開されましたが、残る未公開部分の電子化を行います。 - 蓄積データのアーカイブと公開
上記によって蓄積される言語資料を適切にアーカイブし、容易にアクセスできるかたちで公開します。例えばフィールドワークで収集した言語資料は、オンラインや紙の辞書、文法スケッチや参照文法、字幕付き動画などとして公開します。

プロジェクトの構成員
- 消滅危機言語の保存研究 [ PDF | 156KB ]