第242回 NINJALサロン
「移動から情意的意味への変化と因果性の関わり : 除去の表現「(て) のける」と「(て) しまう」の通時的分析」

開催期日
2022年7月26日 (火) 15:30~16:30
開催場所
・国立国語研究所 多目的室 (東京都立川市緑町10-2) 交通案内
・Web開催・録画限定公開
発表者
安部 さやか (外来研究員 / ミドルベリー大学 准教授)
参加申し込み

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キーワード
研究発表会・シンポジウム、オンライン開催、NINJALサロン、日本語史、語彙・意味

講演要旨

文法化の研究において、ある移動動詞が特定の時間的概念 (アスペクト、テンス) を表すようになる傾向 (Bybee et al., 1994; Heine & Kuteva, 2002; Kuteva et al., 2019) や、意味がより主観的 (subjective) (話し手ベース) になる傾向 (Traugott, 1989; Traugott & Dasher, 2002) が幅広く記述・分析されてきた。また、このような変化の前後 (source - target) の関係を説明するメカニズムを明らかにする試みも活発に行われてきた (Hopper & Traugott, 2003 [1993]; Traugott & Dasher, 2002) 。一方、情意的 (affective または emotive) 意味を含む表現については、一貫した通時的分析があまりなされていない。本発表では、このような意味の性質の理解を目指し、歴史コーパスをもとに、除去を表す二つの類義的な動詞、シマウとノケルから、文法化された補助動詞、テノケルとテシマウの通時的比較・分析の経過を報告する。

テノケルとテシマウは共に「何かを意図的に動かしてなくする」という意味合いの<除去> (displacement) を表す動詞 (「退く・退ける」と「仕舞う・仕廻う」) が他の動詞のテ形に接続した形で現れるようになったものである。いずれも、<やりにくいことなどを敢えて為す・完了する>という意味合いで使われ始め、さらに<事態が不本意に起こる>という意味も表すようになるなど、似通った変化を遂げてきた。 (テに続くシマウは江戸初期に、テに続くノケルは室町時代には既に使用されていた。) しかし、現代においては、テノケルは後者の意味を失い、前者の意味 (意図的な行動・完了) を、主に動作主が話者以外の誰かである場合のみ、感心した気持ちを込めて用いるようになり、テシマウは、既存の意味に加え、自発的動作・変化に伴う<不本意>の意味を強め、さらに、発話行為レベル (伝達することそのものへの懸念・躊躇) へと機能が拡張している。本発表では、共起する動作の表現やコンテキスト (動作主が話者自身かそれ以外か、動作が意志的か無意志的か、など) が双方の変化の違いに深く関わっていることを様々な用例を用いて示し、因果性 (causation) という概念が移動と情意の表現のつながりにどのように関わっているかを考察する。

NINJALサロンとは

研究所内の研究者相互の交流を深めることを目的とした気楽な雰囲気の研究発表会です。外部からの聴講も歓迎します。(参加無料)
スケジュール : 原則として、毎週火曜日の15時半から16時半まで。(発表と質疑応答を含む。)


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