語用論的推論に関する比較認知神経科学的研究
- プロジェクトリーダー
- 酒井 弘 (早稲田大学)
- 実施期間
- 2016年10月~2019年9月
概要
研究目的
言語によるコミュニケーションなくしては,現在のような人類の繁栄は考えられません。これまでの実験を用いた言語研究は主に狭義の言語能力を対象にしてきましたが,「狭義の言語機能は語用論機構に繋がっていなければ役に立たない」という趣旨の Chomsky (2014) の言葉をひくまでもなく,人間の言語コミュニケーション能力を解明するためには,狭義の言語能力に加えて語用論能力の研究を推進することが必要不可欠です。そこで,本研究プロジェクトでは,関連性理論 (Sperber and Wilson 1986 / 1995) や理性的言語行為モデル (Frank and Goodman 2012) などを踏まえて,狭義の言語能力のアウトプットである論理形式から表意 (明意) や推意 (暗意) を導く語用論的推論のプロセスと神経基盤を,日本語と系統的・類型的に異なる言語を比較しつつ,脳機能計測を含む種々の実験手法を用いて実証的に研究することを目的とします。
研究計画・方法
本研究プロジェクトでは,日本語及び日本語と系統的・類型的に異なる複数の言語を対象として,語用論的推論の計算内容 (文法),計算手続き (処理過程),ならびにその実装 (神経基盤) を,言語学,心理学,神経科学などの多様な観点から統合的に研究し,人間の言語能力の全容の解明に貢献します。さらに将来的には,日本語学習者にとって困難であるとされる発話意図を表す文末表現やイントネーションの学習,語用論的推論が苦手だとされる自閉症児のコミュニケーション能力の発達,さらには「社会脳」の障害であると言われる認知症患者の推論能力などに関する研究を通してこれらの問題の解決に貢献し,人類の幸福に寄与することを目指します。