日本語から生成文法理論へ : 統語理論と言語獲得
- プロジェクトリーダー
- 村杉 恵子 (南山大学)
- 実施期間
- 2016年10月~2019年9月
概要
研究目的
極小主義アプローチに基づく統語理論は,併合やラべリングといった最低限必要とされるメカニズムによって,言語の諸特性 (句構造,名詞句の分布,移動の義務的適用,移動の循環性と局所性,照応形に課せられる束縛条件,削除の諸条件など) を説明する仮説です。したがって,この枠組みに基づいた日本語の分析はそれ自体に意義があるといえるでしょう。
更に,このプロジェクトは,統語理論を発展させる直接的な契機となりうる点で重要な意味をもちます。言語の相同と相違は,LGB (Lectures on Government and Binding) 理論においては,統語原理群と付随するパラメータを仮定することにより説明されてきました。一方,限られた普遍的特性のみを仮定する極小主義には,もはやその余地はありません。したがって,日本語文法の類型的特徴と獲得のプロセスを適格に捉えるためには,そして,より一般的に言語間変異を説明するためには,基本的な操作や概念に踏み込んで研究を遂行しなければなりません。ラベリング,素性与値,フェイズといった基本的な操作や概念を,どのように設定・定義すれば,日本語の類型的特徴を捉えることができるのか。その仮説は,他言語の言語事実を広く正確に説明しうるのか。現時点での日本語文法の理論的研究は,統語理論の根幹に関する研究の礎となりうるでしょう。
研究計画・方法
本研究は,日本語の統語分析と言語獲得研究を通して一般言語理論に貢献し,同時に,日本語の類型的特徴について説明を与えることを目的とします。日本語を記述の中核に据え,特に以下に提示する基本的操作と概念から構成される統語理論 (極小主義アプローチ; Chomsky 2013, 2016) を追求します。
- 二つの要素から構成素を形成する併合および構成素の性質を決定するラベリング
- 探索または一致によるφ素性ならびに文法格などの与値
- 統語派生および解釈部門に情報を提供する単位としてのフェイズ
この統語理論は,極めて高い説明力を有し,多くの課題を解決するものであるが,一方で,日本語のような言語の類型的特徴や言語間変異をどのように捉えうるのかについては明らかにされていません。本プロジェクトでは,上記の理論をそのままの形で適用することでは分析しえない日本語の現象 (多重主語,自由語順,項省略,複合述語,Wh句解釈など) に焦点をあて,日本語の文法現象を詳細に検討し,その事実を説明する仮説を提示することにより,日本語の類型的特徴にも適格な説明を与える形に理論を発展させることをめざします。