文字環境のモデル化と社会言語科学への応用 プロジェクトの詳細
研究目的
日本語の文字表記について,文字環境 (文字レキシコンを含む) のモデルを理論・構造研究系を中心に作成する。そのモデルは,日本人どうしの文字コミュニケーションに関する研究のほか,日本語学習者の漢字習得研究にも新たな理論的基盤を提供するものと期待される。
また,本プロジェクトが提唱する文字環境モデルは,音声コミュニケーションに関する研究にも利用できる。具体的には,山形県鶴岡市で1950年から約20年間隔で3回行われた共通語化の縦断調査や,愛知県岡崎市で1951年から実施されてきた敬語の経年調査などの大規模データベースを活用しながら,時空間変異研究系と連携して言語変化の新たな理論を導出する。とりわけ,山形県鶴岡市の共通語化研究については,統計数理研究所のプロジェクトと連動しながらデータ整理を進め,言語変化理論の検証に必要な統計解析を可能にするための基盤を整備する。 さらに,米国シアトル市で1956年から7年間隔で継続されている「知能の生涯変化」に関する大規模な縦断研究との比較もおこない,言語習得研究や老人学研究にも貢献できる言語変化研究の方法論を確立する。このような学術的挑戦は,単に文字論だけではなく,社会言語科学や計量言語学にも新たな発展をもたらし,既存の分野の枠を超えた学際領域の創出につながる。
研究計画・方法
本プロジェクトの射程は現代の共時的研究におく。そして,「文字環境研究班」と「共通語化研究班」の2つを組織してプロジェクトを円滑に遂行する。
文字環境研究班 : 文字環境のモデル化をおこなう
井上と高田と横山は,看板,新聞・雑誌,市販辞書,JIS漢字規格などの物的文字環境が,心内辞書 (mental lexicon) 等の心的文字環境に及ぼす影響について検討する。すでに各人が学術論文等で公刊している質的モデルと量的モデルの両者をさらに理論的に深く追究する。ここでの量的モデルは,ある文字刺激に接触した経験が,その後の行動や認知にいかなる影響を及ぼすかを説明するための多変量解析モデルである。
共通語化研究班 : 社会言語科学への応用を実現する
このプロジェクトでは,上記の文字環境モデルや言語変化のS字カーブ理論などを土台として,記憶・思考研究の発想を付加した新たな理論について検討し,国立国語研究所が1950年から半世紀以上にわたって蓄積してきた社会言語学的な縦断調査データの解析に応用を試みてきた。2011年度は,その理論から導出された予測を検証するため,統計数理研究所・調査科学センターと連携して山形県鶴岡市で共通語化に関する大規模な調査を試みる。これは1950年,1971年,1991年とこれまで約20年間隔で3回にわたって当研究所と統計数理研究所が連携しながら実施してきた調査の第4回目になる。この調査が成功すれば,世界でもっとも長い期間を横断的・縦断的に追跡したデータが得られ,統計科学,脳科学,老年学などの諸分野にも貢献が期待できる。
共同研究員 (所属)
- 阿部 新
(名古屋外国語大学) - 阿部 貴人
(専修大学) - 井上 史雄
(明海大学名誉教授 / 国立国語研究所客員) - 小川 孔輔
(法政大学) - Joseph F. KESS
(University of Victoria 名誉教授) - 小助川 貞次
(富山大学) - 斎藤 達哉
(専修大学) - 佐藤 栄作
(愛媛大学) - 田島 孝治
(岐阜工業高等専門学校) - 當山 日出夫
(立命館大学) - 徳弘 康代
(名古屋大学) - 中村 隆
(統計数理研究所) - 野崎 浩成
(愛知教育大学) - 濱川 祐紀代
(国際交流基金日本語国際センター) - Yuko Goto BUTLER
(University of Pennsylvania) - Galina VOROBEVA
(キルギス国立総合大学) - 前田 忠彦
(統計数理研究所) - 森 篤嗣
(帝塚山大学) - 矢田 勉
(大阪大学) - 梁 敏鎬
(韓国聖潔大学校) - 吉野 諒三
(統計数理研究所) - 米田 正人
(統計数理研究所) - 林 立萍
(国立台湾大学) - Eric LONG
(東京大学) - 高田 智和
(国立国語研究所) - 野山 広
(国立国語研究所) - 間淵 洋子
(国立国語研究所)