このプロジェクトは平成24年9月で終了しました。今後の更新予定はありません。
定住外国人の日本語習得と言語生活の実態に関する学際的研究 プロジェクトの詳細
研究目的
本プロジェクトでは,主として旧センター (日本語教育基盤情報センター) で実施した縦断調査 (センターとの関わりの項目で説明) で得られた会話データの分析や新たなデータの収集・整備,分析を言語習得研究や言語生活研究の観点・手法を用いて行いつつ,蓄積する。そのことで,多言語・多文化化が進む現代の地域社会における定住者の言語習得,言語生活の実態をより的確に捉え,日本語習得を必要とする定住者が抱えている諸課題にできるだけ応える (応用言語学的) アプローチの基盤を築くのが目的である。
目的達成に向けた展望
プロジェクトを企画した背景には,地域定住者の言語生活の研究や習得研究では,これまで,横断的に収集した (時間軸を無視した) データで行う場合が多かったことが挙げられる。横断調査では得られない情報を収集した上で,この目的を果たすためには,研究の目的を「実態をより的確に把握するだけでなく,社会的諸課題の解決にも貢献できること」に置く福祉言語学 (Welfare Linguistics) 的な知見や接近方法を手掛かりとする必要がある。本プロジェクトでは,この知見を出発点とし,OPI を活用した調査の成果として収集した会話データや,学習者を取り巻く言語生活・環境に関する調査結果の分析・応用,調査研究を通して,より普遍性の高いアプローチの方法の基盤を築きたい。本プロジェクトは,言語生活・接触研究,コミュニケーション研究,習得研究等が内包する社会的側面や課題を中・長期的にわたって調査研究 (支援) をする必要があるものである。その萌芽として本プロジェクトを位置付けたい。将来的には,日本語に関する応用言語学の基幹プロジェクトの一つとなるようにしたい。
センターとの関わり
日本語教育研究・情報センター (旧日本語教育研究・基盤情報センター整備普及グループ) では,日本語・日本語教育研究の充実,共同研究,連携・協働活動の拡充等を目標に,日本語教育データベースの構築を行ってきた。このデータベース作りの背景には,海外から移住してきた地域の定住者 (日本語非母語話者) の増加や,その増加に伴う,定住外国人の言語環境整備促進の必要性等がある。センターでは,これまで,基盤情報の一つとして,OPI (Oral Proficiency Interview) という,全米外国語教育協会 (ACTFL) が開発した,口頭能力をインタビューで測定する方法を活用した日本語学習者会話データの収集,整備を行ってきた。この会話データの内訳は,多数 (300人以上) の横断 (異なる対象者を大量に調査した) データと,少数 (20数名) の縦断 (同一の対象者を定期的に調査した) データである。
これまでの実績等
この縦断データを基にして,これまで「地域に定住する日本語学習者の言語生活に関する縦断的研究 ―OPIテストを活用した会話データからみえてきたこと―」というようなテーマで,ポスターセッションやワークショップ (成果報告) を,社会言語科学会や日本語教育国際大会等で行ってきた。
研究計画・方法
本プロジェクトは,3年間 (21年度下半期~24年度上半期) の研究期間で実施する。本プロジェクトの主要メンバー各人が,プロジェクトで掲げた課題の関連研究をすでに実践し,その成果を挙げてきている。したがって,本プロジェクトでは,研究分担者の研究成果や経験・知見を生かしつつ,次に述べる【既存データの分析・応用】【研究会の開催】【フィールドワーク】を計画の枠組みとする。
既存データの分析・応用
① 日本語 (学習者) 会話データの分析 (21年度~23年度)
本プロジェクトでは,共同研究の一環として,センターで収集した会話データの分析を行うとともに,その応用 (言語生活・接触研究,コミュニケーション研究,談話分析・習得研究,日本語教育研究,評価研究,協働実践研究等への応用) の在り方について追究する。また,分析・追究の構成・参加メンバーとして,必要に応じて研究協力者 (OPI のテスター他) にも参加してもらう予定である。
研究会の開催
① 現状把握のための研究会
国内外の研究動向から,言語生活・接触研究,コミュニケーション研究,談話分析・習得研究,日本語教育研究,評価研究,協働実践研究等に必要な情報を収集する。本プロジェクトの期間中に明らかにすべき事柄を検討し,調査地域の確認と,新たな調査対象者,調査方法・内容の設定を行う。
② 進捗状況把握のための研究会及びフォーラム (平成22年度,平成23年度)
設定された課題に取り組むために実施したデータ分析やフィールドワークの成果を報告する。また,国内の学会のほか,例えば日本語教育国際大会 (台湾,中国) など,関連分野の国際会議,パネル,ワークショップ,ポスター等の場で成果を公表する。
③ 研究成果の確認,及び次の研究課題を設定するための研究会及びシンポジウム (平成24年度)
フィールドワークの成果報告,研究成果公表活動の報告を行うための研究会を実施する。また,その成果をシンポジウム等で公表するとともに,その結果を踏まえて,報告書の作成等,今後のプロジェクトで対象とする課題の設定を行う。
フィールドワーク等の実施
メンバーが担当するのは,秋田県能代市,群馬県大泉町での縦断調査の継続及び新規対象者への調査,国内の他地域 (新たな地域) での調査,海外の (邦人定住者が多い地域である) デトロイト (米国),メルボルン周辺 (豪州) 等での実験・訪問調査である。
準備の状況と役割分担
主要メンバーは,平成18年度以降,異文化間教育学会,日本語教育国際大会,社会言語科学会などでのケース・パネル,ワークショップ等を通して,関連した研究課題について意見交換を行ってきている。特に OPI のテスターや現地との繋がりに関しては,既に実施された縦断調査 (群馬県大泉町・秋田県能代市周辺での2年間の調査) の際の協力者 (3名 : 嶋田,山辺,藤田) が,本調査においても継続して参加している。実験・訪問調査を実施する予定のデトロイト,メルボルン等の状況については,野山自身が既に現地を訪れ,ある程度把握している。その他,桶谷氏 (米国在住) がデトロイト,橋本氏 (豪州在住) がメルボルンの調査に関して主な協力者となる。
以下,野山や研究分担者がそれぞれ以下のような役割を担う予定である (敬称略)。
- 野山 : 研究の総括 : 定住外国人の言語生活・言語習得に関する学際的研究及び福祉言語学的なアプローチの追究に向けたネットワーク作りとコーディネート
- 桶谷 : OPIデータの分析や活用に関して,バイリンガリズムという観点からの接近
海外及び国内に定住する非母語話者の言語習得・バイリンガリズム研究の在り方の追究 - オストハイダ : 定住者の言語接触場面における福祉言語学的な研究方法の探究
- 朝日 : 国内外の地域社会における住民の言語生活・接触研究の在り方の追究
- 迫田 : OPIデータの分析や活用に向けた,言語習得研究観点・手法からの接近
地域社会における定住外国人の日本語 (第二言語) 習得研究の在り方の追究 - その他の分担者・協力者の役割 (重複あり) :
心理学 (横山),異文化コミュニケーション研究 (清),日本語教育研究 (横溝,清,當作,迫田,岡本,橋本),評価 (當作,岡部),言語生活・接触研究 (松尾,朝日),方言研究 (松丸,阿部),バイリンガル教育 (桶谷),留学生教育研究 (橋本),談話分析 (森本,岡本),ネットワーク研究 (阿部),OPI測定・フォローアップインタビュー (嶋田,山辺),社会教育研究 (藤田)
共同研究員 (所属)
平成24年9月時点の所属です。
- 阿部 新(名古屋外国語大学)
- 岡本 能里子(東京国際大学)
- 桶谷 仁美(イースタン・ミシガン大学)
- Teja OSTHEIDER
(関西学院大学) - 清 ルミ(常葉学園大学)
- 當作 靖彦
(カリフォルニア大学サンディエゴ校) - 橋本 博子(モナシュ大学)
- 松尾 慎(東京女子大学)
- 松丸 真大(滋賀大学)
- 森本 郁代(関西学院大学)
- 横溝 紳一郎(佐賀大学)
- 朝日 祥之(国立国語研究所)
- 迫田 久美子(国立国語研究所)
- 横山 詔一(国立国語研究所)