敬語と敬語意識の半世紀 ―愛知県岡崎市における調査データの分析を中心に―
略称 | : | 敬語の経年変化 |
---|---|---|
プロジェクトリーダー | : | 井上 史雄 明海大学 外国語学部 教授 |
実施期間 | : | 平成22年11月~平成24年3月 |
研究分野 | : | 日本語学,社会言語学,言語行動論 |
キーワード | : | 敬語,敬語意識,言語生活,経年調査,社会言語学 |
プロジェクトのHP | : | 岡崎敬語調査 |
概要
敬語の使用と敬語についての意識の在り方は,日本語の実態や歴史を把握したり国語施策・国語教育施策を立案したりする上で重要な論点である。また,人口移動の活発化,地域社会の変容,家族構成の変化,高度情報化など激しく変化する現代社会においては,敬語・敬語意識について静態的な情報としてではなく,社会変化の中での動態として把握することが不可欠である。こうした課題意識に基づいて,国立国語研究所は1953 (昭和28) 年,1972 (昭和47) 年,2008 (平成20) 年の三回,愛知県岡崎市において大規模な定点・経年の臨地調査 (以下,岡崎調査と称す) を実施し,敬語使用の多様化,敬語選択要因や敬語意識の変化に資する調査データを収集・蓄積してきた。このような定点・経年の大規模言語調査は世界的に稀な事例である。この実時間の経過を踏まえて,敬語と敬語意識の変化・不変化を把握することが学界等において強く期待されている。本研究は,以上のような研究課題の下に,岡崎調査に関するデータを高度学術利用することにより,学際的な研究を目指すものである。
共同研究員 (所属)
平成24年3月時点の所属です。
- 尾崎 喜光
(ノートルダム清心女子大学) - 久木田 恵
(中京大学) - 斎藤 達哉
(専修大学) - 真田 信治
(奈良大学) - 辻 加代子
(神戸学院大学) - 西尾 純二
(大阪府立大学) - 松田 謙次郎
(神戸松蔭女子学院大学) - 松丸 真大
(滋賀大学) - 松本 渉
(関西大学) - 水野 義道
(京都工芸繊維大学) - 吉岡 泰夫
(別府大学) - 杉戸 清樹
(国立国語研究所名誉所員) - 米田 正人
(国立国語研究所名誉所員) - 阿部 貴人
(国立国語研究所) - 井上 文子
(国立国語研究所) - 高田 智和
(国立国語研究所) - 鑓水 兼貴
(国立国語研究所) - 横山 詔一
(国立国語研究所)
研究目的
研究目的
岡崎調査の定点・経年調査による結果は2009年度までに整備し,データベース化されている。また,方言敬語や日常談話の録音資料,調査地の敬語や言語生活に関連する各種言語資料も併せて収集・蓄積されている。本研究の目的は,これらのデータベース・各種言語資料を高度学術利用することにより,現代日本の地域社会における敬語使用・敬語意識の実態を記述するとともに,言語の変化と将来予測に関する実証的な研究を行うことにある。
研究の意義
岡崎調査は,同一の調査内容で,同一の対象地域・対象者に対する大規模な調査を実施している。このような調査デザインは世界でも岡崎調査,同じく国立国語研究所が過去3回実施した鶴岡調査,アメリカのシアトルにおける知能発達に関する調査研究の3調査研究のみである。岡崎調査はその中でも,現在のところ世界最長のタイムスパンで実施された調査であり,言語変化を実時間で追跡する言語研究としての意義だけでなく,記憶に関する脳科学や言語の生涯発達に関する認知神経心理学等の諸科学にも資する成果を提供する意義がある。
研究計画・方法
国立国語研究所が保有する敬語と敬語意識のデータ・資料を分析し,理論的・実証的研究を展開するため研究メンバー全員が参加する「 (1) 全体研究会」を開催する。また,分科会として「 (2) 丁寧さの段階付け研究会」を組織してプロジェクトを円滑に遂行する。
(1) 全体研究会
研究メンバー全員が参加する全体研究会2回程度開催し,データの分析結果の報告や新たな理論枠の提唱などを行う。たとえば,パネルサンプル (同一人物の追跡調査) のデータが約50年間でどう変化したかを分析することにより,言語変化に及ぼす加齢や生涯発達の効果を検討する。この会を統括するのは研究リーダー (井上史雄) であり,それを事務局 (横山詔一,礒部よし子,阿部貴人) が補佐する。
(2) 丁寧さの段階付け研究会 : 分析のためのデータを整備し,新手法を確立する
林知己夫氏 (統計数理研究所元所長) による数量化Ⅱ類の確立に寄与した「丁寧さの段階付け」は,回答データにランキング形式のカテゴリデータを付与する手法であり,敬語使用と敬語意識や種々の属性間の相関をみるものである。この手法は,第一次・第二次調査のデータには付与されているものの,第三次調査のデータには付与されていない。そこで,かつての手法を再検討し,第三次調査のデータにも付与したデータベースを完成させる。さらに,新たな方法論的展開についても検討し,新手法を確立する。この会は阿部貴人が中心になり,それを研究リーダーが統括するとともに,事務局が運営を補佐する。