このプロジェクトは平成25年10月で終了しました。今後の更新予定はありません。

文末音調と発話意図とを統合した話し言葉のアノテーションの可能性 ―日本語諸方言の同意要求表現を中心に考える― プロジェクトの詳細

研究目的

従来の日本語話し言葉音声のアノテーションは,音声そのものの記述 (分節音・音調) に主眼が置かれる傾向にあった。しかし,音調,特に文末の音調は発話意図と密接な関係があり,文末音調と発話意図とを統合したアノテーションを行うことが出来れば,音声研究のみならず,文法研究にも資するところがあろう。そこで,本共同研究では,音調と発話意図とを統合したアノテーションの可能性を模索することを目的とする。「アノテーションのしやすさ」という観点からは,まずは有標の現象を取り上げるのが妥当であると考える。そこで,本共同研究においては,日本語諸方言における同意要求表現の音調を分析対象の中心に据えることとする。その背景として,日本語諸方言における同意要求表現は,種々の先行研究で,他の発話意図とは異なる (有標の) 文末音調が観察されるという報告や,当該発話意図に特化した表現形式が観察されるという報告があることが挙げられる。また,調査対象地点も,種々の先行研究において,同意要求表現特有の音調や表現が存在するという報告がある場所を選択した。

研究計画・方法

本共同研究では,種々の先行研究で,同意要求表現において,有標の音調が現われるという報告があった以下の地域を対象に,音声収録を行い,音調と発話意図とを統合したアノテーションの可能性を模索する。

  1. 首都圏 :
    形容詞の同意要求表現 (「...クナイ?」) において,アクセント核がなくなる音調が生起する地域 (田中ゆかり氏のいう「とびはね音調」)。また,井上史雄氏の報告では,名詞の同意要求表現 (「名詞+じゃね?」においても,名詞のアクセント核が消去される音調で実現される,という。
  2. 福岡市 :
    首都圏において,「とびはね音調」が生起する際に使用される「クナイ」という表現が,形容詞以外にも接続するようになり,同意要求に特化した形式になっているという報告がある地域。また,当該地域では,疑問詞疑問文や,形式名詞「ト」・文末詞「ト」が含まれる文において,アクセント核が消去される音調が実現されるという地域である。
  3. 愛媛県宇和島市 :
    中立的な疑問文の文末音調は下降調になるが,同意を求める疑問文の文末音調は上昇下降調になるという報告がある地域。つまり,同意要求表現で,有標の音調が観察される地域である。

本共同研究は,上記の3地点を中心に音声を収集し,有標の音調が現われるか否か,現われる場合には同意要求という発話意図と有標の音調を統合し,どのようなアノテーションを施すことが可能であるか,といった点を模索する。本共同研究は日本語話しことば音声のアノテーションの可能性を探る探索的な試みであるため,調査対象地点を限定することにするが,余裕があれば,上記以外の地域で,独自の同意要求表現を発達させているとされる地域の調査も敢行する。

研究計画は以下のとおりである。

平成23年度

調査対象地域で音声の収録を行う。また,年2回程度の研究発表会を開催する。研究発表会では当該年度の成果を発表する場にすると同時に,共同研究員以外の研究者にも発表を依頼し,本共同研究に関連する基礎的な知見を共有する場とする。

平成24年度

前年度収集した音声の詳細な分析を行い,発話意図と文末音調とを統合したアノテーションの可能性を模索する。また,調査対象地域の音声をさらに収集し,基礎的なデータの拡充を図る。当該年度も年2回程度の研究発表会を開催すると同時に,各種学会での口頭発表をすることにより,研究成果,研究の途中経過を外部に報告することとする。

平成25年度

本共同研究の最終年度であるため,前年度までに収集した音声の分析を行い,発話意図と文末音調とを統合したアノテーションの可能性をさらに模索する (必要があれば,さらに追加調査を行う)。研究成果は,年2回程度の予定で開催する研究発表会以外に,各種学会の学会誌に論文を投稿することにする。

共同研究員 (所属)

平成25年10月時点の所属です。

  • 出野 晃子
    (京都産業大学)
  • 江崎 哲也
    (山梨大学)
  • 高木 千恵
    (大阪大学)
  • 前川 喜久雄
    (国立国語研究所)
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